大食いの吸血鬼





R-18描写があります。苦手な方はそっとブラウザを閉じてね。
構わぬ!という心臓が強いだけどうぞ。




週末に留三郎の家で宅飲みすることを決め、二人は連絡先を交換した。けれど当日までメールや電話はなく、二人は待ち合わせしていたスーパーで久しぶりに顔を合わせた。

「おー」

先に来ていた竹谷を見つけ、留三郎は片手をあげた。留三郎に気付いた竹谷も片手をあげて合図をする。

「何か食いたいものある?」
「あ、とりあえず、自転車に貰ってきた野菜持ってきてます」

竹谷はそう言って近くに置いてあった自転車へ行き、破れそうなくらい詰め込まれた野菜たちを留三郎へと見せた。

「すげぇ、泥ついてる」
「農学部の使ってない畑少し借りてるんです。無農薬ですよ」
「へぇ、自分でも作ってるんだな」
「さすがに食費で破産したくないんで」
「じゃあ材料は別に買わなくてもいいか」
「そうですね」
「もう酒も用意してあるから、もう行こうぜ」

留三郎はビニール袋をぶら下げて歩き、その後ろから自転車を押した竹谷が続く。
久しぶりに顔を合わせたからか、竹谷も留三郎も何とか話の切り口を探そうとそわそわとしていた。そして同じタイミングで同じように「あの、」と声を発した。言葉が被り、そして二人は顔を見合わせて少し笑う。それだけで緊張が解けたのか、竹谷が「食満さんからどうぞ」と笑いかけた。

「食べれないものってあるか?」
「いえ、好き嫌いはないですね」
「へぇ。にんにくも?」
「食べられますよ」
「へぇ…」

吸血鬼は十字架とにんにくが苦手だと思っていた留三郎は「本とは随分違うんだな」と感想呟く。竹谷は「まぁ、仮にも末代なので」と苦笑していた。


留三郎の部屋はスーパーから徒歩十分ほど住宅街にあった。アパートの住民は大抵が学生であり、狭くてぼろくて安いアパートである。そして最上階の四階の端部屋が留三郎の部屋だった。

「景色いいですねー」

留三郎が鍵を開けている間、竹谷は辺りを見回してそう言っていた。高台に建っているので四階という高さな割に見える景色がいいのである。
眼下には町並みが広がり、反対側には山がある。どれもこれも、部屋から眺める分にはとてもいい景色なのだ。

「坂道毎回大変だけど、景色だけはいいんだ」

この部屋に決めた理由がそれだから、竹谷が景色を褒めてくれた事が嬉しい。留三郎は無意識に微笑んでいた。

「中、入れよ」

放っておいたらいつまでも景色を眺めていそうな竹谷に留三郎は玄関から声を掛けた。


キッチンは男二人が立つには狭く、竹谷は部屋の奥で座って待っている事になった。6畳程しかないらしいが、物が少なくすっきりしているのでもっと広く見える。留三郎の部屋にある大きな家具はベッドとテーブルとパソコンくらいしかない。

「すごいすっきりしてますね」

部屋をきょろきょろと見回して竹谷はそう漏らした。こまめに掃除をしているのか髪の毛一つすらおちていない。

「あー俺あんまり物を置かないから。ごちゃごちゃしてんの好きじゃねーんだ」

キッチンから留三郎の声が返ってきて、竹谷はキッチンへの通路へと顔をにょきっと出した。

「俺の部屋と大違いです。綺麗にしてるんですね」
「…お前の部屋、汚さそう」

留三郎は葱を持って振り返りながら、そう笑っていた。
留三郎の指摘通り、竹谷の部屋は汚い。そして竹谷の部屋が汚い原因は物が捨てられず、溢れているからだった。

「俺、物が捨てられないんっすよね」

部屋の隅にあるベッドへと移動し、竹谷はベッドに凭れながら天井を見上げた。竹谷は物が捨てられない。何でも取っておいてしまうのだ。例えば、友人達と作った大学祭のパンフやら、そういう物を全部取っておいてしまうのだ。

「あー…でも捨てられないならしょうがないんじゃないか?無理して捨てるものでもないと思うし」

キッチンからまた留三郎の声が届いた。そしてその言葉に竹谷は視線を天井からキッチンの方向へと向ける。
今まで竹谷の部屋を訪れる人々は皆、口を揃えて「物を捨てろ」と言った。留三郎のように無理して捨てなくていいと言ってくれる人はいなかったのだ。留三郎のその言葉が自分を肯定してくれたように感じて、竹谷は思わず近くにあったクッションで顔を隠す。何故か今、猛烈に恥ずかしくて嬉しい。

「物が溢れてるって事は収納が下手なんじゃねーの?クローゼット開ければわかると思うけど、俺の部屋、物がないわけじゃないんだぜ?」

留三郎のその言葉に「見てもいいんですか?」と尋ねると「おー」と返事が返ってくる。「じゃ、ちょっと覗きますね」と竹谷は立ち上がって壁一面に備えられているクローゼットを開けた。
物がないわけじゃない。そう言っていた留三郎の言葉通り、クローゼットは物で溢れていた。ただ、全てがきちんとまとめられて片付けられている為、ごちゃごちゃしている印象はない。

「…片付け上手なんですね」

竹谷は思わずそう漏らした。

「お前だってこんくらいは出来ると思うぞ。あ、竹谷テーブルの上、片して」

留三郎が両手に皿を持って現れ、竹谷は慌ててクローゼットを締めるとテーブルの上に置かれていたティッシュやらリモコンやらを床へと置く。

「さすがに五種類くらいしか作れないけど、量は作ったからいいだろ?」
「ありがとうございます!」

テーブルの上に乗ったのは大盛りのサラダと同じく大盛りのナポリタン。他にも具だくさんのカレーやチンジャオロース、そして味噌汁が並んだ。

「いろいろごちゃまぜだから食べ合わせはアレだけど、ごめんな」

二時間でこんなにも沢山の量を作ってくれた留三郎に竹谷は感激していた。

「さぁて、食いながら酒、飲もうぜ!」

留三郎は冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出してきて竹谷へと渡す。

「乾杯!」

二人は缶をくっつけては楽しそうに笑った。




*:*:*




飲み会を始めて数時間。辺りはすっかり暗くなり、あれだけの量があった筈の料理も全て竹谷の胃袋へと消え、そして二人の姿はベッドの上にあった。
セミダブルのベッドの上で二人は上半身裸になって、口付けを交わしていた。竹谷は留三郎の上に圧し掛かり、舌を絡めさせながらどうしてこうなったんだっけかと、考える。
初めは普通の飲み会だった。けれど缶ビールの空き缶が増え始め、日本酒へと移行した辺りから部屋の空気が変わった。離れていた距離がいつの間にか近くにあり、視線が合うと二人とも逸らさずに顔を近づけてキスをした。そして、今はベッドの上だ。

「ぁっ、あっ、たけ、やぁ」

首筋に舌を這わせ、乳首を摘まむと留三郎が体をびくりと震わせ、そして甘い声を出した。その甘すぎる声に竹谷は自分の理性が飛ぶのが分かった。
留三郎は乳首が弱いらしく、舌で擦りあげたり、甘噛みしたりするとひん、と鳴く。そして堪らない、というように竹谷の髪を掴んだ。

「ここ好きなんですか?」

竹谷の問いに、留三郎は何度も小さく頷く。素直すぎてどうしたらいいのか竹谷は分からなくなる。けれどそんなこと留三郎はお構いなしでもっと、とねだるように背を反らせては胸を突きだしている。
アルコールの所為か留三郎の体は何処も薄く朱を帯びていてとても綺麗だった。
二人とも互いのズボンと下着を脱がし、その合間にもずっと唇を重ねる。舌を甘噛みすると肩に回された手が竹谷の背中を軽く引っ掻き、既に勃ち上がりとろとろになっているそこへ指を這わせると竹谷の胸へと額を押し付けて声を殺して悶える。留三郎の全ての反応が可愛くて竹谷は益々止まれなかった。

ローションを手のひらへと出し、指へと絡めてから竹谷は留三郎の尻を掴んだ。ひぃと悲鳴を呑み込み、留三郎は与えられる感覚に耐えている。入り口が解れてきたら、またローションを絡めた指を一本挿入させる。異物感に耐えるように留三郎はぎゅうと目を瞑って竹谷の片手を握りしめていた。
慣れてくると指を一本、また一本と増やす。中にある留三郎の弱い場所へと触れると留三郎の口からは甘い悲鳴が上がった。さっきまでは萎えていた筈のものもまた硬く勃ち上がっては先走りを零している。

「あぁっ…たけ、あ、そこっ、やだぁっ」

前立腺へ何度も触れ続けると感じすぎて辛いのか、留三郎が首を横に振りながら竹谷から逃げるようにしていた。逃がさないようにしっかりと押さえつけながら気を紛らわしてやろうと竹谷はまた留三郎に口付る。舌を絡ませながら指を前後に動かし始めるとその内、留三郎の腰が揺れ始める。

「もぉ、いいっ」

そう言って竹谷のものをねだる留三郎にまだ若い竹谷が我慢できる筈もなく、指を引き抜くとゴムをつけた自分の物を入口へと押し当てた。粘膜同士がくっつく感触に留三郎は言葉を飲む。
そして留三郎の「いれて」の言葉の後、竹谷自身が留三郎の中へと侵入し始める。
指とは全く違う質量に初めは苦しそうにしていた留三郎だが、一旦全部を受け入れると瞼を開いて竹谷をじっと見た。心配そうに見下ろす二つの瞳の奥にある興奮に気付いて、留三郎は背筋がぞわりと粟だった。

「動いて、いいっすか?」

もう待てないのか、そう聞いてきた竹谷の声はかなり切羽詰っている。掠れ気味のその声が、留三郎の腰に響く。
振り落とされないようにと竹谷の肩に両手を回して留三郎は「いいよ」と答えた。

初めはゆっくりだった動きも竹谷に余裕がなくなると速くなっていく。どうやって呼吸すればいいのかすら留三郎は分からなくなり、あまりの気持ちよさに頭が溶けたようにさえ思う。
けれどその時、ひとつの事が頭を過り、留三郎は竹谷の名前を呼んだ。

「何ですか?」

わざわざ動きを止めてくれた竹谷に留三郎は笑みを向けながら顔を斜めに傾けて首筋を見せる。その時、竹谷の瞳孔が開き、ごくりと唾を飲むのが見えた。

「なぁ、吸、血鬼な、んだろ?吸ってみろ」

はぁはぁと息を乱しながら留三郎は竹谷へと挑戦的な言葉を告げる。初めは拒むだろうかという留三郎の予想を裏切って、竹谷はゆっくりと留三郎の首筋へと顔を近づけた。理性は既に飛んでいて、留三郎と本能に誘われるまま竹谷は留三郎の白い首筋へと歯を立てた。

噛まれるのだから少し痛いのだろうか。噛まれる瞬間、留三郎はそんな事を心配していた。




「あっ…やぁっ…あぁっ、あっ」

噛まれるのだから痛みが来ると思っていたが、訪れたのは痛みとは全く違う感覚だった。血を吸われているという意識はなく、ただただ快楽が首筋から腰へと降りてくる。喘ぐ声は抑えられず、背が反るのもどうしようも出来なかった。気持ち良くてどうしようもなく、抗えない。留三郎はみっともない声を出しながら竹谷のものを締め付け、そしてそのまま達してしまった。
留三郎がイってしまっても、竹谷はそれには気付かないようで留三郎の首筋から顔を上げない。気持ち良さの所為か、それとも別の何かが原因か。段々と視界が白んでいき、留三郎は竹谷の名を呼んでそのまま意識を飛ばした。







耳鳴りが煩くて瞼を開けると目の前に心配そうな竹谷の顔があった。そして竹谷は留三郎が目を覚ました事に安堵したのか涙を零す。ぽろぽろと降ってきた涙は留三郎の頬に落ちた。

「良かった、目を覚まさなかったらどうしようかと思ってたんです」

竹谷はそう言っては涙を零し、「どこか痛いところはないですか?気持ち悪くありませんか?」と尋ねる。
留三郎はゆっくりと体を起こしたが、何故か体中がだるくてしかたがなかった。このだるさは性交だけが原因ではないのだろう。現に耳鳴りが鳴りやまない。

「すみません、俺、血吸うの初めてで、その、加減が分からなくて…ほんとなんてお詫びしたら」

嗾けたのは留三郎なのだから竹谷だけが悪いわけじゃないのに、竹谷は顔を真っ青にして床に正座していた。
竹谷もそうだが、留三郎も服を着ていた。きっと竹谷が体を清めた後に服を着せてくれたのだろう。合意で始めたのだし、ここまでしてくれているのに竹谷はまだまだ申し訳なさそうだ。

「鏡、クローゼットの中に置いてあるから取って」

留三郎の言葉に竹谷は勢いよく立ち上がりクローゼットから鏡を取り出して留三郎へと渡した。留三郎は鏡に首筋を映してみたが、そこには二つの丸い跡が残っている。それは雑誌や本で見たことがある吸血鬼の吸い跡と全く同じものだった。
指で触れても不思議と痛みはなかった。そして血も出ては来ない。

「…どうだった?」

留三郎の突然の問いに竹谷は何を尋ねられたのかが分からないらしくただ、動揺していた。

「初めてだったんだろ、血吸うの」

留三郎は鏡をベッドの上に置き、竹谷へと尋ねる。竹谷は暫くもごもごと口ごもっていたが、暫くして覚悟を決めたのか「あの」と口を開いた。

「こういうと変態みたいですが…すごく美味しかったです。俺、あんなに美味しいもの今までに知りません」

竹谷は後ろめたいのか少し俯きながらそう言った。そして「あと、満腹って意味初めて知りました。もう何も食べれません…でも食満さんにはとても迷惑をおかけしてしまって…俺、なんて謝罪したらいいのか」と付け足した。

竹谷は相変わらず正座をしたまま申し訳なさそうに項垂れている。実家で飼っている犬が怒られる時と全く同じようにしゅんとしている竹谷が何だか留三郎はおかしかった。

「また吸いたいと思う?」

留三郎のその言葉に竹谷がはっと顔を上げ、そして留三郎の首筋を見つめた。獰猛な生き物のような鋭いその視線に背筋がぞくりと泡立ち、そして先ほどの強烈な快楽を体が無意識に思い出した。

「…水飲みたい。冷蔵庫に水ないんだけど、竹谷買ってきてよ」

留三郎がそう言うと竹谷はいつもの顔に戻り、「あ、はい!」と勢いよく返事をすると立ち上がって財布を掴む。そして「安静にしててくださいね」という言葉を残して水を求めに部屋を出て行った。
玄関のドアが閉まったのを確かめて、留三郎はへなへなとその場に崩れて横になる。

血を吸われている時に体中を巡ったあの快楽は、今まで味わったどんなものよりも強烈だった。その証拠に、後ろでもなく、前でもなく、留三郎は血を吸われただけでイってしまった。

「…やべぇ、癖になりそう」

思わずそう漏らして、留三郎は竹谷が残した首筋の跡を優しく撫でた。



 




(2011/11/06)

吸血鬼一族の末裔の竹谷と一般人留三郎のお話。

吸血鬼に血を吸われる時って快感だったらきっと「吸って!吸って!」になって困らないんだろうなーって考えたら、そういう竹食満書きたくなって書いちゃいました。
一応その後のお話も書きたいなぁと考えてます!!