言葉なんて信用ならない
土曜日の朝、いつもより早く起きた食満は外出するために支度をしていた。そして着替え終わって部屋を出ようとした時、携帯を部屋の何処かに置き忘れた事に気付いて部屋中を探し出した。
「携帯、どこ置いたっけ」
テーブルの上には無く、ベッドのタオルケットの下も枕の下も見てみたが携帯は見つからない。こういう時は誰かに携帯を鳴らしてもらった方が早く見つけられると知っているけれど二階の住人でこんな早くに起きている人物は文次郎くらいだということも知っていたから食満はひとりで黙々と探し続けた。
探し始めて数分経った頃、突如この部屋のどこかから着信音が流れ始め、食満がベッドの下を覗くと薄暗い場所で携帯のライトがチカチカと点滅を繰り返している。
「あったあった」
携帯を開くとメールではなく着信で、電話の相手は今日遊ぶ予定の友人だった。
週末の土曜日。きっと竹谷はまたもや酔って帰ってくるだろうし、それを寮で待つのが嫌でそれなら自分も遊びに出掛けようと暇な奴を探した時に引っ掛かってくれた同じゼミの奴だった。
食満は電話に出ながら部屋を出た。
「もしもし」
「あ、留三郎?お前今日来るだろ?」
「今から向かう」
「あ、まじ?あ、そうそう人数増えたんだけどいいよな?」
「別にいいけど、俺の知ってる奴か?誰?」
「知ってる奴。でも誰かは会ってのお楽しみってことで、時間通りに来いよー」
電話の相手は喋り終わると食満の反応など興味がないというように一方的に切ってしまった。ここで掛け直したとしても結局はぐらかされるだけだと思った食満は応接間で新聞を広げている文次郎へと「出て来る」とだけ告げてそのまま寮から出る。
待ち合わせ場所へ向かっている間、食満はずっと竹谷の事を考えていた。竹谷は鈍いところがあるからきっと何故食満が怒っているか今ひとつ分かってない部分があるだろう。どうして食満が怒っているかを説明したらさすがの竹谷だって理解してくれることは分かっていた。そうは思いながらも食満は竹谷へ説明する気にはなれない。今の精神状態で竹谷と二人きりになればきっと口から出て来るのは自分でも聞きたくないと思うほど馬鹿げた台詞ばかりだろうことが予測出来ているからだ。
「信じられない」
「最初からどうせ口だけだったんだろ」
「好きだって言った癖に」
「嘘吐き」
「謝るくらいなら最初からするな」
女の子の口から出てくる分にはまだまだマシな言葉だけれどそれが自分の口から出るところを想像すると薄ら寒くなる。そう思っている時点でアウトだけれどそう簡単に苛立ちは消えてくれないので心の中で思う分にはセーフだと食満は思うようにしていた。
待ち合わせ場所は駅前の公園だった。土曜だからか子供連れが多く賑わっていて、何処にいるかすぐには見つけられない。待ち合わせの相手へと電話を掛けた時、後ろから突然肩を叩かれた。背後で着信音が鳴っているのが聞える。
「よう、留三郎」
「おー…」
振り向くと待ち合わせていた友人が笑いながら立っていて、その後ろに女の人が二人立っていた。
「ちょっと来い」
食満は電話を切り、慌ててそいつの腕を引っ張り少し離れて女の人たちには聞こえないように声を潜めながら「聞いてない」とだけ告げると友人は「言ってないし」と笑う。
「ま、男二人で映画行くよりマシだろ。つーか、お前に指名入ってんだよねー」
「…え、まじで?」
「そ。右側のすっげぇ可愛い子見覚えあるだろ?お前に気があるみたいだぜ。お前彼女いなかっただろ?遊ぶくらいいいじゃんか」
背中を強く叩いた友人は笑いながら女の子たちの所へと戻っていく。断る理由もないので仕方なく食満もその輪へと加わった。
先ほどまで楽しく会話をしていたのに、その会話をぶつ切りするように「じゃあ、俺たちは行くから後は二人で楽しんで」と友人が食満の肩をポンと叩いた。左側の女の子ももう一人の女の子の肩を叩いていて、友人もその子も怖いほどの笑顔を浮かべていた。
「え?!」
「え?!」
もう一人の女の子も何も聞いていなかったようで食満と同様うろたえている。
「私たちは別行動だから」
「そ、後は二人で楽しんで」
食満ともう一人の女の子をその場に残して友人ともう一人の女の子は立ち去って行った。残された食満もその子もいまいち状況が掴めておらず、棒立ちしたまま暫く視線を合わせていた。
「取りあえず、場所移動しようか…」
「はい…」
この場所でずっと立っているわけも行かず、食満は女の子と二人で駅ビルの中にあるカフェへと避難した。
見覚えがあると思っていたら、その子は食満と同じ学科の後輩だった。どうやら一度だけ歓迎会で顔を合わせていたようでその子は食満の名前まで知っており、そしてその子の名前を食満も聞いたことがあった。
「えっと、姫川さんは今日は何がしたい?っていうか、何て言われて連れだされたの?」
「…映画見に行こうって言われてたんです」
「映画か。一緒だな。ちなみにどの映画?」
彼女が口にしたのはやはり食満が見る予定だった映画だった。
「なら、今から行こうか。俺もそれ見る予定だったんだ」
当初の予定通りに映画を見に行くことになり、映画館へと着くとタイミング良く次の上映へと間にあった。映画は2時間半もの間喋らずに居られるし、映画が終わったらすぐに飯を食べることになったのでトークスキルが必要な場面はあまりなく、食満は胸を撫で下ろす。
食満が必死に女の子が好きそうなものを考えても出てくるのはパスタくらいだった。それで寮生の三木衛門がバイトしているカフェが近いことからそこへ向かうことにした。というのも、食満は牛丼屋や安い定食屋は知っていても、女の子が好きそうなカフェなんてろくに知らなかったのだ。
「ここでいい?」
「あ、はい」
ランチタイムだからか店内は結構賑わっていたが、三木衛門の姿がなかったのが食満にとっては救いだった。今の状況を見られでもしたら、寮に帰った瞬間に寮生に詰め寄られる自信があった。
「ここ出たら行きたい場所とかある?」
食後のアイスティーを飲み干してから食満がそう尋ねると、目の前でまだパスタを食べている彼女が困ったように首を傾げて「特には…」と呟いた。
姫川は大人しい性格なのか殆ど俯いている。折角綺麗な顔立ちをしているのに何で俯くんだろうと思ってはいたが、まさかそれを言えるはずもない。そして先ほどから提案を出すのは自分ばかりで正直張り合いがないと食満は思っていた。
「そうか…」
「あ、与四郎先生は何かありますか?」
「…よしろう、先生?」
「あっ」
自分の発言に気付いたのか姫川は自分の口元を抑える。そして一瞬にして茹で蛸みたいに真っ赤になってしまった。それはもう、さっき食べたミートソースが顔に全て回ったかのようだった。
「あの、す、すみません…!」
「…いや、別にいいんだけど、与四郎ってもしかして錫高野与四郎?」
「え、知ってるんですか?」
「まぁ、知り合いかな」
錫高野与四郎は今は竹谷と同じコンビニでバイトをしているがその前は食満と同じ店で働いていた。バイト先が変わった今でも連絡は取り合っていて、たまに寮へと遊びに来たりもする。そのことを話すと彼女は重い口を開いた。
彼女がまだ高校生だった頃、家庭教師を雇っていてその教師が与四郎だったらしい。淡い恋心を抱くのに時間は掛からず、E判定だった大学へと受かったら告白すると決めて必死に勉強をしてこの春無事に合格することが出来た。けれど肝心な恋の方は実らず、デートも一度だってしてもらえなかった。そして傷心のまま大学生活をスタートした時に食満を見掛けたそうだ。はじめは与四郎だと思っていたけれどどうやら似ているだけで別人らしいと気付いたのはつい最近とのことだった。まぁ、要約すると彼女が食満に興味を持ったのは食満が彼女の想い人である与四郎に瓜二つだからだった。
「まぁ、似てるとはよく言われるけど」
「似てますよ。でも、やっぱり違うんだなと思うところもあります」
「喋り方だろ?」
「それは全く違いますよね」
クスクスと笑う彼女はまだ失恋の痛手から全快していないように見えた。食満自身、竹谷との喧嘩で傷ついているからか、どこか悲しそうな彼女の表情を見ていると自分の胸まで軋むような気がしてしまう。余計な世話だろうと分かっているけれど何とか心から笑って欲しいと思い、どうしたら笑ってくれるだろうかと食事中はそんなことばかり考えていた。
デザートまで食べて支払いを済ませ、カフェを出てから食満は彼女を見つめた。
「与四郎と何処に行きたかったんだ?」
「水族館とか、ありきたりなんですけどね」
「…水族館か。よし、今からでも間に合うから行くか」
「…いいんですか?」
「まぁ、与四郎じゃないんだけど君がそれでいいなら」
そう言うと彼女は笑った。その笑顔はさっきよりもっと複雑に見えたけれど悲しみは幾分か和らいでいたように食満は感じた。
水族館ではパンフレットを見ながら通路を歩き、寿司食べたいと思いながら水槽の中の魚を見つめた。水族館の傍にある土産物屋では彼女が欲しがったクラゲのぬいぐるみを買ってあげた。昔付き合った彼女にさえもこんなものをプレゼントしたことはなかったけれど、今はどうしてか優しくしたかったのだ。彼女の傷が癒されれば少しは自分も癒されるような、そんな気分になっていた。
西に沈み始めた太陽が空を赤く染め始めた頃、ようやく大学近くで解散した。別れ際、プレゼントしたぬいぐるみが入っている袋を抱きしめた彼女は「恋人みたいでした」と笑い、「一日限りだけどな」と返すと「今日は一日中私の我儘に付き合って下さってありがとうございました」と丁寧に頭を下げた。
「本当に楽しかったです」
今日一日、与四郎の代わりではあったけれど食満も久しぶりに悩みを忘れて楽しむことが出来た。食満にとってもいい気分転換になっていた。
「俺も楽しかった。また学校で」
「ありがとうございました」
ペコリと頭を下げた彼女へと食満は手を振ってその場を離れた。
本当なら男友達と映画見た後に居酒屋行ってだべる予定だったけれど、自分を詳しく知らない人との一日限りの交遊は変に気を使わなくて済む部分があるからなのか結構楽しむことが出来た。二人きりにして置いていった友人をはじめは恨もうかと思ったけれど、今となってはこれで良かったと思っていた。
寮へ戻り、普段通りの生活をしていた食満は夜になると竹谷が帰ってくる前に寝ようと自室のベッドへ転がっていた。
食満が寮へ戻ってきた時、既に竹谷は出掛けていた。きっとまた飲み会に呼ばれているんだろうし、もしそれなら深夜にまた酔っ払って帰ってくるのだろう。だからこそ竹谷が帰ってくる前に寝てしまおうと食満は思っていたのである。
寝よう寝ようと何度も思っているけれど時間が経てば経つほど目が冴えて来る。結局はベッドへ転がって2時間経っても寝付くことは出来なかった。
「あーもう、竹谷むかつく」
寝れない苛立ちが竹谷へと向かい、いっそのことイタ電でもしてやろうかなと食満が携帯を開いた時、竹谷から電話が掛かってきた。タイミングの良さに驚いて一瞬固まってしまったが、すぐに電話に出てみる。酔っ払って掛けてきていたら怒鳴ってやろうかと思ったのだ。
「もしもし、竹谷か?」
「…あ、食満先輩ですか?あの、俺、作兵衛です。富松作兵衛」
電話越しから聞えてきたのは竹谷の声ではなく、食満の後輩である作兵衛の声だった。機嫌が悪そうな食満の声に怯えたように作兵衛はおどおどと拙く喋り出す。
「あの、竹谷先輩が潰れちゃって、ずっと食満先輩呼んでるんです」
「…何処で飲んでるんだ?」
「あ、迎えに来てくれるんですか?よかった!俺、もうふたり運ばなきゃいけない人いるんで助かります!」
そう言われてしまえば迎えに行くしかなかった。時間を確認するとまだ10時回った頃で、0時くらいまで平気で飲んでいる竹谷にしては珍しいなと思いながら電話を切った食満は竹谷を迎えに行く為に寮を出た。
竹谷達が飲んでいたのは大学から一番近い居酒屋だった。学生向けの安い大衆居酒屋の店内は学生で埋め尽くされていてどの席からもテンションが高い声が聞えてくる。作兵衛が電話で言っていた席には潰れて横になっている竹谷しか残っていなかった。どうやら他のメンバーは先に二次会へと行ってしまったらしく、居酒屋の固いティッシュには作兵衛の文字で「次屋と神埼で俺は手一杯なので竹谷先輩をお願いします」と書かれていた。
溜め息を吐きながら食満は竹谷の顔を覗きこみ、そしてその頬を軽く叩いた。
「竹谷、起きろ。迎えに来たぞー帰るぞ」
「…け、ませんぱい?」
声に気付いたのか竹谷が目を開けた。そして食満の顔を見るなり涙をぽろぽろと零す。
「何泣いてんだよ、泣く前にほら、取りあえず立て」
竹谷の体を起して脇の下へと潜り込んで支えると竹谷がぐいっと凭れかかってきた。体を起こすのが辛いほど酔い潰れている竹谷を見るのはこれが初めてだ。
「…辛いか?取りあえず店の邪魔になるから外に出るぞ?」
「はい」
ぐったりした竹谷を支えて食満は店を出る。会計は既に済んでいるようで店を出る時に「ありがとうございましたー」と笑顔で声を掛けられた。
居酒屋の隣りに建っているマンションの駐車場まで運んで食満は竹谷を下ろす。さすがにこいつを支えたまま寮まで戻れる気がしなかったのだ。せめて自力で歩けるくらいまで酔いを醒ましてもらわないと困る。
「ちょっと待っとけ、水買ってくるから」
食満が立ちあがろうとした時、竹谷がぐっと食満の腕を掴んだ。酔っている癖に腕の力は強くて振り解けない。
「竹谷、お前の為に買ってくるんだよ、離せって」
「嫌です」
「…いい加減にしろよっ」
竹谷の言葉に苛立って本気で腕を振りほどこうと食満が振り向くと竹谷は怖いほど真剣な瞳をしていた。
「嫌です。絶対離しません。誰にも先輩を譲るつもりないんです」
ぐいと力強く腕を引かれた。不意を突かれた為か、簡単に引き寄せられ、気付くと食満は竹谷の腕に抱きしめられていた。
「好きです。大好きです。だから先輩が嫌だって言っても絶対に離しません。先輩が誰を好きでも、俺は諦められません。ごめんなさい。好きなんです」
首筋にぽたりと何かが落ちた。それが何なのかを確かめようと竹谷から少し体を離すと、やはり竹谷は泣いていた。ぽろぽろと涙を零して、子供みたいに泣いている。
「先輩が俺のこと嫌いになっても俺は先輩が好きです」
竹谷は静かにそう告げた。涙を零してはいるが、それすらとても静かだった。
「嫌いになるわけねーじゃん、俺がいつお前を嫌いっつったよ」
「…でも、先輩怒ってる」
「…そりゃ怒ってたけど、でもそれと嫌いは違うだろ」
まだ不安そうに涙を零す竹谷にこれ以上何を言ったらいいのか分からず抱きしめた。ぎゅうと抱きしめると今度は肩へと涙が落ちるのが分かる。
「…でも先輩デートしてましたよね。俺よりやっぱり女の子がいいんでしょう?」
竹谷のその言葉に食満はばっと体を離して竹谷の顔を凝視した。
「見てたのか?」
「見ました。ヒメちゃんって言うんでしょ?すっごい可愛い子でした。ヒメちゃんが先輩に気があるってのも知ってます。もう付き合ったんですか?俺なんてもういらないですか?」
「馬鹿、お前何か勘違いしてるって」
「勘違いなんかしてませんよ。先輩がヒメちゃんと楽しそうに笑って歩いているのこの目で見ました。俺には全然笑ってくれなかったのに、ヒメちゃんの前だと楽しそうで、そんなに俺のこと嫌いになりましたか?」
「…あーもう」
食満の言葉なんか聞く耳持たず、まだまだ愚痴を連ねてきそうな竹谷の唇を食満は自分の唇で塞いだ。そして唇を甘く噛み、隙間から舌を捻じ込んで竹谷の舌へと舌を絡ませる。
普段はキスの時に音を立てる竹谷を睨むつけてばかりの食満だったけれど今はくちゅくちゅとわざとらしく水音を立てている。
「んっ…はっ」
ようやく唇を離した食満の頬は赤く、酸素が足りない為か瞳には涙が滲んでいた。開いた口から垂れそうになった唾液を手の甲で拭いながら真っすぐに竹谷を見つめている。
「嫌いな奴にこんなことするわけねーだろ。分かったか」
「…はい」
酔いが冷めたのだろう、竹谷の表情は普段のものに戻っていた。そして食満を抱き寄せるとぎゅうと力強く抱きしめる。
「先輩が俺のこと好きだってちゃんと伝わりました」
「お前は?」
「え?」
「お前は俺のことどう思ってんの?」
食満のその言葉に竹谷は体を少し離してからもう一度キスをした。舌を執拗に絡めながらわざとらしく音を立て、最後にもう一度軽くちゅっとキスをする。
「伝わりましたか?」
「…んっ」
竹谷の言葉に食満は小さく頷く。そしてそのまま竹谷の肩へと頭を乗せる。酸欠でくらくらして縋るものが欲しかったのだ。
「食満先輩」
耳元で囁かれたその声に首筋がぞわぞわと粟立つ。首筋を舐められ、歯を立てられると体が簡単に跳ねてしまう。だけど全然嫌じゃない。むしろ、その先に待っている快楽まで早く与えてほしいと思って体を摺り寄せる。
「たけ、やっ」
「先輩、大好きです」
甘い竹谷の言葉に流されそうになり、目を閉じようとした時、居酒屋の方向から大きな笑い声が起こった。その声に食満はここが外だということを思い出して竹谷の顔を体から引き剥がす。どうして、とお預けを食らった犬のような竹谷の表情に心臓が大袈裟に跳ねた。
「見つかる」
「えぇー」
「外は無理」
「…じゃあ部屋ならいいんですか?」
竹谷のその言葉に少し躊躇ったが結局食満は頷いた。
「なら、さっさと部屋戻りましょう」
急に立ち上った竹谷は食満の腕を取り、さっきまで酔って歩けなかったとは思えないほどしっかりと歩き出した。
「…お前酔ってたんじゃなかったのか?」
「酔ってましたよ?」
「じゃあ何で今はちゃんと歩けんだよ」
「先輩への愛のおかげです!」
「…ただの性欲だろ」
溜め息を吐きながらちらりと竹谷の顔を見ると、竹谷は嬉しそうに笑っていた。さっきまで泣いていたとは思えないほどいつも通りの竹谷の笑顔に食満は自分の心が落ち着いていくのを感じた。
「やっぱりお前は笑ってる方がいいな」
ぐいっと背筋を伸ばしていた竹谷は食満の言葉を聞き逃したようで「え、なんです?」と顔を近づけて尋ねてくる。食満は竹谷へとちゅっとキスをして「好きだっつったんだよ」と笑った。
何か色々言いたいことあった気もしたけれど、竹谷が嬉しそうに笑うのを見るともう何でもいいやと思えた。竹谷の顔は言葉よりも雄弁で、竹谷の直球の言葉を食満は信用することが出来なかったけれどこの表情が竹谷の気持ちだというのなら全て信じられそうだ。
「先輩、大好きです」
そう告げる竹谷の言葉ではなく、恥ずかしい程の甘い笑顔を自分へ向けてくれる竹谷を信じてみようと食満は思った。
(おわり)
(2010/05/26)
あとがき
竹谷と食満の現代大学生パロ第2弾を読んで下さってありがとうございます。
竹谷の気持ちに疑心暗鬼になってる食満は可愛いなぁーとか、信用してもらえない竹谷とか可愛いなぁって思っていたらこんな話になりました。
室町だと女の子が登場しても(婚姻制度とか、性愛感覚が今とは随分と違うだろうから)嫉妬なんてそんなにしないだろうと勝手に思っているので恋愛感情でのすれ違いはやっぱり現代パロに限るなって思います。
「色・恋」な室町の竹谷と食満も好きなんですけど「恋愛」してる竹谷と食満はとても可愛くいいですよね!嫉妬する竹谷が書けて満足です。
あと、やっぱり食満は竹谷に絆されているなぁーと思いました。
あいつまた同じことするぜ…来年くらいにまた同じことで喧嘩するよ…と思うんですけど、食満がもういいって言うからもういいんだと思います。
何気に与四郎さんがタラシだってことも書けてよかったです。
オリキャラのヒメちゃんは室町で言えばお姫様キャラなので、安直にヒメってしました。
そう考えると与四郎は姫さまを垂らしこんだのか…さすがだ 笑
ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます!!
もし何か感想などありましたら拍手やメルフォからどうぞ…!
管理人がやる気を出したり元気になったりするので気が向いたらお気軽にどうぞ〜!