( a strawberry shortcake*** )
R-15描写があります。苦手な方はそっとブラウザを閉じてね。
構わぬ!という心臓が強いだけどうぞ。
路地裏の入口で佇んでいると通りすがりの人に肩をぶつけられてしまった。背の高い男がちらりと此方を見やって舌打ちする。ぶん殴ってやろうかとも思ったのだが、背の高い男はすぐに唾を地面へと吐いて立ち去った。男の背中を睨みつけたけれど、こんな場所で突っ立っていれば通行人の邪魔になってしまうのは確かでこれ以上この場所に立っている訳には行かない。
手に持っていた携帯を開いて、伊作からのメールにもう一度目を通す。そして路地裏へと視線を向けて一歩踏み出した。
まだ明るい時間なのにも関わらず、路地裏は薄暗い。光と共に太陽の熱すら届かないからか、空気すら表通りよりも涼しく感じる。まだ通路の終わりが見えない遥か先から少し冷たい風が吹いて俺の前髪を揺らした。側面は薄汚れた壁が続いていき、唐突に現れた扉の前で足を止める。ドアはいつも開いているからきっと今日も開いているだろう。
伊作に連れられて初めてこの店を訪れたのは十日程前のことだった。それからは伊作に連れられるままに二、三日に一回のペースで訪れている。包帯を巻いた男はまだ高校生であまり金を持っていない俺と伊作を邪険には扱わず、いつも美味しいケーキとコーヒーを出してくれた。ケーキの作り方も一度だけ教わったけれど、時間が掛かるということと材料費が高いということで結局自分で作ることはなかった。その代わりにこの店を頻繁に訪れてはケーキを食べさせてもらっている。値段はコンビニのケーキ程の値段で、他の店と比べると格段に安いので高校生の財布にも優しいのである。
深呼吸してドアノブを掴んで引くと扉は簡単に開いた。カランコロンといつものように鈴が鳴り、店内へと足を踏み入れる。薄暗い店内には人影はなく、男の姿も見当たらない。いつも伊作がするように大きな声では男の名を呼ぶことは出来ず、入口で立ち止まって視線を左側の壁へと移した。
いつもと同じ場所へ掛けられている絵に近付く。初めは繊細な絵だなと思っていたのだけれど何度も見るうちに随分と印象が変わってしまった。赤い色はまるで血のように色を濃くしていて繊細というよりは強気な色だとも取れる。その赤い果実の色が何かに似ている気がしてじっと見つめていると後方で物音がした。勢いよく振り向くとさっきまでは誰もいなかったカウンターにいつの間にか包帯を巻いた男が座っていて、笑みを浮かべて俺を見ていた。
「いらっしゃい」
「…どうも」
ぺこりとお辞儀をして男の向かいの席へ腰を下ろす。
男はグラスを拭きながら黙って俺を見ている。どうやら食器を拭いているらしく、周りにはグラスだけじゃなくフォークやスプーンなどが沢山並べられている。無言の空間と視線に耐えられずに視線を手元に落としていると「ボタン、どうして開けてるの?」と尋ねられた。
「え?あ、ボタン?」
慌てて顔を上げると男は微笑を浮かべている。
「君の学校、確かネクタイあったんじゃなかった?」
「え、あるけど学校終わると外す…外します」
「どうして?」
「え、だって暑くて」
この路地裏は随分と涼しいから暑さなんて感じないが、夏が近づくこの季節だと学校や帰り道は暑くて仕方がない。風を入れるためにネクタイを外し、シャツも第二ボタンまで開けていた。伊作が一緒にいると「だらしないよ」とか「ちゃんとして」と小言を言われるからボタンを開けることは殆どないけれど今日はひとりで来たから開いたままだったのだ。
「そう」
「…はい」
目の前で男は目を三日月のように細めた。伊作はこの男と普通に会話をしているけれど、俺には出来そうにもない。ただでさえ年上の人と会話する機会などないのに、目の前の男はどうみてもそこら辺にいる普通の人とは違っているように見える。何を考えているのか分からない男の前では勝手に斜に構えてしまってうまく会話が運べないのだ。
「今日はひとり?伊作くんは?」
「今日は委員会があって来れないらしいです」
「そう。ひとりで来ちゃだめだって伊作くんに言われてなかった?」
男はくすくす笑いながら俺を見る。その目は明らかに俺をからかっていて、これが同じ学年の文次郎ならぶん殴っていたけれど相手は素性も何も分からない年上の人間だ。そんな態度なんて取るわけにもいかずに俯いた。
「…だから内緒です」
「内緒、」
「伊作に俺がひとりで来てたって言わないでください。あいつ最近すごく煩くて、この前もやっぱり教えなきゃよかったとか言うし、だから、その、言わないで貰えると助かります」
ちらりと視線を上げて男の顔を窺うと男は小さく溜め息を吐いた。そしてその場を離れるのか椅子から腰を上げる。
「あの、」
「もっとゆっくり来ると思ってたからまだケーキ完成していなくて。少し待ってくれるかい?」
「あ、俺も何か、手伝います」
ガタっと勢いよく立ち上った時にカウンターの上に置かれていたフォークが二本、カウンターを挟んだ向こう側へと落ちた。それは拭き終わったばかりのフォークで一瞬蒼ざめてしまう。
「す、すみません」
慌ててカウンターの向うへと回り、床に転がっているフォークを拾い上げようと屈みこむ。フォークを手に取って顔を上げた時、思っていたよりもずっと男の顔が近くにあって思わず息を飲んだ。フォークを握っている腕を捕まえられ、カウンターの壁に押しつけられる。
「君さ、もうちょっと警戒しなきゃだめだと思うよ?」
なにを、と尋ねる前に唇が塞がれてしまう。
これがキスというものだとは分かったけれど、でもいまいち何が起こっているのか理解出来ていない。触れるようなキスをした後に唇が離れたけれどすぐにまた口付けられる。驚いたままで開いていた唇から男の舌が入り込んで来た。その舌の感触にようやく何をされているのかを把握して男を押し返そうとしたのだけれど強い力で押さえこまれていてビクともしない。
何度も角度を変えて口づけられ、勝手に口腔内を舐め上げられる。歯の裏や舌の裏などを舐め上げる度に背筋がぞくぞくとして鼻から漏れる息が聞いたこともない声になり、キスが深まる度に水音がして恥ずかしくて瞼を閉じる。呼吸のタイミングが分からずに苦しくて目に涙が浮かんだ。
男がようやく唇を離した時は、酸素が足りなくて頭がくらくらしていた。どちらのか分からない唾液の糸が伸びてそれを男は舌で切る。その時、この店に置かれているあの絵の赤い色がこの男の舌の色に似ていることに気付いた。
それにファーストキスがレモン味なんてそんなこと信じている訳じゃないけれど、男としたキスは甘い味がした気がした。
涙を溜めこんだままの目で男の舌ばかり見つめていると男が口角を上げて笑う。
耳元へと近付いてきた唇が耳たぶを甘噛みし、そして耳の中へと舌を入れられる。
「あっ、やぁ」
初めての感覚に体を震わせると耳元で男が小さく笑った。フォークを持っている右手は震えて、辛うじてフォークを床へと落とさずにいるだけで男を押し返す程の力はでない。
「耳、弱いの?」
「しら、ねぇ」
男が首筋へと唇を移動させ、そして吸いついた。
「んっ」
強く目を瞑って唇を噛み、与えられる感覚を耐えようとしていると急に床へと押し倒される。瞼を開くと目の前には包帯を巻いた男の顔がある。
「な、に」
質問を最後まで言うことすら許されず、もう一度唇を塞がれる。今度はちゃんと唇を閉じていたのだけれど、息が続かずに唇を薄く開いた瞬間を男は見逃さなかった。またすぐに深く深く口づけられ、逃げようとする舌を吸いあげられる。
「ふっ、んっ…んん」
ようやくキスから解放されたと思ったら男の手が肌に触れた。慌ててそれを止めようとしたのだけれど、いつの間にか腕は上でひとつに纏められて押さえつけられてしまっている。シャツのボタンは既に全て外されていて、男の手が肌へと直接触れては撫ぜていく。耳元へと唇を寄せられ、また舐められると身構えていると舐められる前に乳首を摘ままれた。
「あっ」
予想外の刺激に体がびくっと跳ねる。
「もしかして胸、弱いの?」
耳元で低い男の声がして、今度こそまた耳へと舌を這わされた。
「耳も弱いけど胸も弱いの?」
「だ、から、知ら、ねぇって」
逃げようと体を捩ってみるけれど両手は強い力で押さえつけられていてどうする事も出来ない。
耳を舌で責め立てられ、指先で乳首を摘ままれる。訳が分からない状況に頭がついていかない。
「気持ちいい?」
乳首を指先で弄っている男が顔を覗き込むようにして聞いて来る。俺は男を睨みつけながら「何かぞわぞわ、する、だけ」と返す。すると目の前で男が愉しそうに目を三日月の形にした。
「それね、気持ちいいって言うんだよ?」
唇を耳元へと寄せて男はそれだけ言うと、今度は乳首へと舌を這わせた。指とは全然違う感覚に体が跳ねて声が漏れた。自分が出したとは思えない声に驚いていると男が「ね、気持ちいいでしょ?」と笑う。
「んっ…あっ…」
男は舌と指先で乳首ばかり弄り、俺は自由になった両手で必死に自分の口を押さえていた。そうでもしないと自分のものとは思えない声を上げてしまうのだ。手は自由になったけれど力は抜けてしまっていて、出来ることと言えば声を抑えることくらいだ。
「あっ…」
歯を立てられて背が反ってしまう。まるでもっとと強請っているみたいで恥ずかしい。男がようやく胸から顔を上げた。それをぼんやりと見ていると男の顔が近づいてもう一度口づけられる。男の舌に翻弄されて息が上がり、涙眼になってしまうのはもはや不可抗力だった。ようやく唇を離して貰えたと思ったら、いつの間にかベルトが外されていてズボンを下ろされる。慌てて体を起こしたけれど間にあわず、下着の中から既に勃ちあがったものへ触れられてしまった。
「もうベトベトだね。気持ち良かったの?」
笑う様な男の声に首を横に振ると「強情だなぁ」と呆れたように返された。触るなと押し返そうと男の頭へと手を置いたけれど力が入らず、逆に縋りつくような感じになってしまう。
「じゃあもっと気持ちよくしてあげるよ」
男は俺の反応を待たずに勃ちあがった俺のものへと触れた。どこからか取りだしたのかとろみのある液体を塗りつけた手で扱かれてその刺激に思わず声が漏れる。その場所を自分じゃない誰かに触れられたことなんて今までなかった。初めてのことに対応が遅れてただ男へ縋りつくことしか出来ない。
「あっ…や、だぁっ…やぁっ…出るっ」
男のシャツを手で掴んで首を横に振る。鈴口を指先で弄られ、何度か扱かれるだけで呆気なくイってしまった。吐き出した白濁を男は指先に絡めて見つめ、荒げた息を整えようと肩で息をしている俺を横目に射精を終えたばかりのそこへまた刺激を与えて来る。敏感になっているそこは少し触れられただけでどうしようもないほどの快感を伝えてきて、声を抑えられない。
「あっ…やだ、も、やっ…あぁっ」
逃げようとしても力の入らない体で逃げられるはずもなく、体をびくつかせながらまたイってしまった。余韻で体を震わせている俺の顔を覗き込みながら、男は指先についている液体を赤い舌で舐めとった。
耳元に口を寄せられ、低い声で「潮まで噴いちゃったね。気持ち良かった?」と囁かれるとその声すら背筋に響いて体が勝手に震え、声が漏れてしまう。
「…可愛いなぁ」
男はそう言いながら口付けて来た。今なら身をかわすことが出来たのに俺は無意識に瞼を閉じてそれを受け入れていた。青臭い味が自分の精液だと気付いて逃げようとしたけれど顎を捕まえられていて逃れることが出来ない。舌で口腔内を舐められ、舌を吸われると体の力が抜けて抵抗するところか縋りつくように男のシャツへと手を添えるだけで精一杯だ。
男がようやく唇を離してくれ、呼吸を整えようと思い切り息を吸うと気管に詰まって咽てしまった。ごほごほと咳をしていると男の手が優しく背を撫でる。
「パンツぐちゃぐちゃだね」
男が俺の足から下着を抜き取って、からかうようにそう告げた。
「ちょっと待っててね」
男は立ちあがると酒瓶を置いている壁の後ろに隠れていた階段を上っていく。この棚の後ろに階段があるなんて今まで気がつかなかった。伊作は知っているのかな、とそんなことを考えながらぼんやりしているとすぐに男が下りてくる。そしてまだシャツのボタンすら開けたままで体育座りをしている俺を見て、苦笑しながらタオルと何かを投げつけた。
「まだ開けてない奴だからそれ着て行ったらいいよ。汚れていたのは洗濯しておくから今度取りに来てね」
笑う様な口調で男はそう言い、部屋にあるキッチンへと歩いていく。
「あ、の」
「ケーキ、仕上げておくから早く身なり整えておいてね。もう悪戯されたくないでしょ?」
「…あの、」
「今日は苺のショートケーキだよ。君、生クリーム好きでしょ?楽しみにしててね」
男の言葉に小さく頷くと、満足したのか男はキッチンへと消えて行った。男が投げて来た下着はまだ包装されていて、包装から取り出すとそれは黒いボクサーパンツだった。こんなものを着るのかと何となく意外に思い、体を軽くタオルで拭いてからその下着とズボンを身に付ける。シャツのボタンは一番上まできちんとしめてから男がいるキッチンへと向った。
このキッチンではケーキしか作らないと以前に男が話していた。その為かこの場所はいつも甘い匂いが漂っている。キッチンにある大きなテーブルの上で男がボールの中の生クリームをかき混ぜているのが見えて、甘い香りに誘われるように近くまで歩み寄ると気配で気付いたようで男が振り向いた。
「あ、ちょうどよかった。ちょっとクリーム甘くなってしまったみたいでね、ちょっと味見してくれる?」
男は指先でクリームを掬うとこちらへと指先を向ける。味見をしろと言うからにはそれを舐めとれということなのだろう。
先ほどまで指を舐めるよりももっといやらしい事をされたということを思い出して躊躇ってしまったが、この男に意識していると思われるのが嫌で何でもない顔をして指先のクリームを舐めとろうと口を開けた。
しかし俺がクリームを舐めとる前に男が口の中へと指を二本入れてくる。指先のクリームを舐めとろうと舌を動かすとそれをかわすように男の指先が口腔内を好き勝手に動き、その指先を舌で追いかけて必死に舐め上げる。クリームがなくなっても男は指を抜かず、俺もその指へと舌を絡めていた。男がようやく指を抜いた時には少し呼吸も上っていて、もはや何故指を舐めていたのか分からない。
「君さ、自分が何しているのかよく分かってないでしょ?」
男の言葉は聞えているけれど、その意味を考えるほどの余裕はなくて生クリームが入っているボウルを見つめる。
「…伊作くんに怒られちゃうな」
男の唇が近づいてきて、また口付けられる。何故キスをされているのか分からないけれど、やっぱり男とのキスはやたらと甘い味がして静かに瞼を閉じた。
(2010/03/21)