( a mille-feuille*** )









R-15描写があります。苦手な方はそっとブラウザを閉じてね。
構わぬ!という心臓が強いだけどうぞ。





日差しが冬のものとは違って強くなり、眩しすぎるその光に目を細めると少し前を歩いていた伊作がくるりと振り返って腕をひいた。

「留くん、目、ゴミでも入った?」
「眩しいだけ」
「そう?」

顔を覗き込んだ伊作は、俺が泣いている訳じゃないのを確かめると手を取ったまま細い路地裏を歩きだす。
いつものように唐突に現れるドアの前で足を止めた伊作はドアを開くなり「雑渡さーん」と大きな声で男を呼ぶ。腕を離した伊作を追い掛けるように店内へと足を踏み入れ、左側にある絵へと視線を向けていると右側に人の気配がした。

「…いらっしゃい」

振り返るとやはり男がいつものように黒尽くしの衣類を身に纏って立っていて、俺を見るなり目を細める。

「あ、雑渡さん、こんなとこに居た」

部屋の奥まで探しに行っていた伊作が戻ってきてカウンターへと腰掛け、そして手招きして俺を呼んだ。伊作の隣りの椅子の足元へと鞄を置き、椅子へと腰を下ろした。

「久しぶりだね」

伊作のその言葉に、男は俺の目をちらりと見ながら「そうだね、久しぶり」と笑った。俺は男の顔も伊作の顔も見ることが出来ず視線を手元へと落とす。

「今日も食べてくんでしょ?」

男はワイングラスを拭く為の付近で少しカウンターを拭きながら「ちょっと待ってね」と奥へと消えて行く。

「最近来れなかったもんね。留くん僕の分も食べていいよ」

伊作は疑う素振りすら見せず笑い、俺は小さく頷いてぎこちなく笑顔を作った。
確かに伊作とこの店に来るのは4日ぶりだった。けれど一昨日に伊作との約束を破ってひとりで来ていたのだ。目当てはケーキだったのだけれど、その日食べたケーキの味はあんまり覚えていない。
伊作が笑っているこのカウンターの裏で男にされたことばかり思い出して居心地が悪く感じてしまう。伊作が知っているはずはないのに、後ろめたくてどうしようもない。けれどそんなことを感じているのは俺だけのようで、男はまるで何もなかったかのように普通に伊作と談笑し、ケーキを出しては感想を尋ねてくる。俺もそんな男の態度に釣られていつものようにケーキの感想を告げたり、飲み物をおかわりしたりして、伊作が帰ると言った時は一緒に腰を上げた。

「あ、帰る前にちょっとトイレ借ります」

部屋の奥にあるトイレへと伊作が消えてから、俺は鞄を肩にかけて立ったまま伊作を待つ。男へと視線を向けると負けなような気がして、頑なにトイレのドアを見ていたら「君、」と男に呼ばれた。何なのだろうと振り向くと男は俺の腕を引きよせ、耳元へ口を近づけてから「汚してた下着、洗濯したんだけど、」と何でもないように告げる。その一言で男に触れられた感触を思い出してしまって背筋がびくっと震えた。

「今返してもいいけど、どうする?」

今すぐ返してもらおうと男の方を見た時、トイレの鍵が開く音がした。もうすぐ伊作が出てくるのだろう。今渡されれば伊作の目に止まってしまう。そうすると伊作は言及してくるだろう。伊作の言及をかわす言い訳が全く思いつかなくて慌てて男の言葉に首を振った。

「じゃあ、また今度取りに来てね」

くすくすと笑う様に男は囁いて腕を離す。男が腕を離したのとトイレのドアが開いたのはほぼ同時だった。

「留くん待たせてごめんね。さぁ、帰ろっか」

伊作は俺が手に持っていた鞄を受け取って肩にかけ、そのままドアの方へと歩いてく。伊作が前を向いているのを確認してからちらりと男へと視線を移すと、男は何食わぬ顔で「またおいでね」と微笑んでいる。

「留くん?置いてくよ?」

ドアを開けたまま待ってくれている伊作に慌てて駆け寄り、店内から出た。空が細長くしか見えないこの場所からでも青い色が眩しくて目を細めると伊作が「五月晴れだね」と笑う。

「雑渡さんごちそうさまでした」

ドアを閉める前に伊作が頭を下げたので隣りで俺も軽く頭を下げた。男は何も言わずに軽く手を振り、閉まって行くドアにその姿は見えなくなった。

「今日は天気いいけど、そろそろ梅雨入りするってニュースで言っていたよ」

伊作が細長い空を見上げながら歩くので俺は「へぇ」とだけ返して同じように眩しく光る空を見上げた。


もうすぐ梅雨に入るという伊作の言葉は当たっていて、次の日から天候が崩れ始めた。青い空は灰色の雲に隠れて見えなくなり、風も心なしか冷たくなっている。
今週末に予備校で模試があるという伊作は早々に帰宅し、ひとりの帰り道で俺はあの店がある路地裏の入口で足を止めた。雨はまだ降りださないものの、雲は重く垂れこんでいていつもより路地裏が暗く見える。きょろきょろと少しだけ辺りを窺って、知っている人が誰もいないのを確かめると俺は吸い込まれるように路地裏へと足を踏み出していた。

街灯がひとつもないこの道は、暗くなると歩きにくい。路地裏から流れる空気はいつもよりひんやりとしていて、くしゃみをひとつしてから俺は慌ててシャツのボタンを一番上までしめた。いつもよりずっと暗い色の壁からいつものように突然現れるドアの前で足を止め、深呼吸をしてからドアノブへと手を伸ばす。そのドアはやはり鍵など掛かってなくて、あっさりと開き、カランコロンと鈴を鳴らした。
普段から薄暗い店内も更に彩度を落としており、店内は静まり返っていて物音ひとつすらしない。その為、一歩足を進める度に自分の足音が響く。いつものように視線を左側の壁へと掛けられている絵へとやっていると、カタッと自分の足音以外の音がする。音がした方へと顔をやると男が二階から下りて来たところだった。

「いらっしゃい」

伊作と一緒に居る時よりも少しだけ素気なく聞える声に会釈をしてからカウンターへと歩み寄って男の顔へと視線を向ける。

「今日はひとり?」
「…伊作は来週予備校で模試があるらしくて、勉強するって先に帰りました」
「へぇ、伊作くん勉強頑張ってるんだねぇ。君は予備校は?」
「…別に大学受験するつもりないし、行ってない」
「そう」

男はそこで言葉を区切ってカウンターの後ろにある棚に収められている酒瓶などを手に取った。

「…君も手伝う?」

男は布巾を手に持っているから、どうやら酒瓶などについている埃を取る作業をするのだろう。男と会話をするよりは何か作業している方が落ち着くと思って頷き、男の隣りへと並ぶと布巾を手渡された。

「これで、埃拭いてくれればいいから」
「わかった」

目の前にある茶色の液体が入っている瓶を手に取った時、その手を男に捕まえられた。不意に視界が暗くなり、男の方を見ると顔が近づいてきて静かに口づけられる。薄く唇を開くと、すぐに舌が入り込んでくる。歯列をなぞる舌の動きに、鼻から抜ける声が甘くなっていく。男の舌へと自分のものを絡めると、男が笑ったような気がした。
唇を離した時に、呼吸を整えている俺の手から男が瓶を奪って棚へと戻した。首筋へと男が口付けた時、逃げようと身を捩ると、「何されるか分かってて来たんでしょ?」と耳元で囁かれる。それを言われてしまうと、もう抵抗なんてひとつも出来なかった。


「あっ…それ、やだっ…ひゃっ」

一番上まで締めていたシャツのボタンは全て外され、ズボンと下着も足首まで下ろされている。椅子へと座らされた俺は、自分のものを咥えこんだ男の髪を掴みながら与えられる感覚から逃れようと身を捩っていた。

「気持ちいいでしょ?」
「しゃべ、んなぁっ…あぁっ」

ただでさえ限界が近かったのに咥えられたまま喋られ、思わずイってしまった。崩れ落ちそうな体を何とか両手で支えながら、男を見つめると、男は俺が吐き出したものを無表情のまま飲み込む。それが信じられなくて目を丸くしていると、ようやく視線に気付いた男が顔を上げて目を細め笑った。

「もしかしてフェラ初めてだった?出すの早かったね。気持ち良かったの?」

男の言葉はどれも聞いていて恥ずかしくて仕方がない。言葉にすら煽られている気がして、経験が全くない俺には手も足もでないのである。
男は「拭くもの持ってくるね」と立ちあがったので、俺は慌ててその男の腕を掴んだ。

「…アンタはいいの?」

自分だけ余裕がなくて、一方的すぎるのは嫌いでじっと男を見ると男は愉しそうな顔をした。

「君がしてくれるの?」

その言葉には応えずに、男の黒いベルトへと手を伸ばす。ガチャガチャという金属音はいつ聞いても居たたまれなくて、焦りからか手が震えた。
ズボンと下着をずらすと、もう既に硬くなっているものが目の前に現れる。自分のものとは全く違うそれに、驚いて思わず息をのみ込んだ。浅黒いそれへと手を伸ばして触れてみると、もう先走りで濡れている。

「無理しなくていいよ」

躊躇っている俺を見ていた男が気遣うようにそう言う。優しい口調だったのにも関わらず、まるでお前には無理だと言われている気がして男を一度睨みつけた。そして黙ったまま床へと膝をつき、男のものへと舌を伸ばす。口の中へと広がる味に思わず顔を顰めると男が声もなく笑った。
全てを口の中へ収めることはできず、口に入らない部分は舌を絡めるくらいで精一杯だった。こういうことの経験がないから、どこをどうしたらいいのかよく分からず、先ほど男がしていたことを見よう見まねで真似てみる。

「ふっ…んっ」

呼吸がうまく出来なくて、苦しい上に、中々男はイってはくれない。自分がされた時は2分と持たなかったのに、かれこれ5分以上はこうやっている気がする。口が段々と疲れてきたので手も使ってみることにした。
男の表情が少しでも崩れると嬉しく思い、更に手や舌を精一杯動かす。急に頭を押さえられ、喉の奥まで咥えさせられると苦しくて涙が浮かんだ。男はすぐに口の中へと精を吐き出し、男のものから口を離すと今度は口を手で塞がれた。
吐き出そうとしても男は許してはくれず、俺は仕方なくそれを飲みこんだ。すると男はやっと手を離してくれて、俺は激しく咽込んで床に崩れる。
ぜいぜいと荒い息をしている俺の背中を男が優しい手付きで撫でる。顔を上げ、目が合うと男が「よく出来ました」とまるでひとりでトイレが出来た子供を褒めるような口調で言う。苦く青臭い味が口の中に広がっていて、早くうがいがしたかった。それなのに男は俺の腕を引いて立ちあがらせると、今度は椅子へと座らせる。耳元へ口を寄せられるとそれだけで背筋が震えて、そんな自分に嫌気が差す。

「私の咥えて興奮しちゃったの?」

男の声が耳の中へと溶けていく。首を横に振ると「でもまた硬くなってるよ?」と勃ち上り始めたものを擦られた。

「あっ…ちがっ…やっ」

否定しようと口を開いた時に、男が乳首へと舌を這わせたので説得力のない甘い声が出てしまう。

「お礼にもう一回気持ちよくしてあげるね」

くすっと笑った男の顔は妖艶で、それだけで背筋が跳ねる。これから男にされることを考えるだけで勃ち上っていたものは更に硬くなって先走りが零れ、先走りを指に擦りつけて俺の反応を見ている男の視線に耐えられず目を瞑った。

「想像しちゃった?」

笑う様なその声に、俺は「うるさい」とだけ返してその唇を自分のもので塞いでやる。驚いたような表情をした男ににやりと笑うと「可愛いな」と囁かれ、男の手が俺のものを握り込んで手を上下に動かした。


「あっ…もっ…それ、やだっ…出、るっ」

指先が鈴口を強く弄り、その刺激で仰け反ると今だとばかりに乳首に歯を立てられる。男の頭を片手で掴み、もう片方の手は崩れ落ちないようにカウンターへと伸びていたけど射精をした衝撃でカウンターから手が離れ、崩れ落ちそうになったところを男が支えてくれる。その体にしがみつくように腕を回すと、男が笑いながら背中を優しく撫でた。
体を拭いてからシャツのボタンを締めていると、男の顔をが近づいてきてキスをされる。自ら唇を開き、舌を迎え入れ、絡める。長いキスが終わった後に唇から垂れた涎を男の指が拭ってくれた。

「君、拒まなくなったね」
「…アンタとのキスは嫌いじゃない」
「そうなの?」
「甘いから。今は苦かったけど、さっきは苺とカスタードの味がした。今日はミルフィーユか?」
「…君、ケーキ食べさせてあげるからって大人の人に言われても着いて行っちゃだめだよ?」

男は俺の質問に呆れたような顔をしながら全然違う話をする。じっと黙っていると、俺の腹の音が鳴って静かな部屋の中で響き、男が苦笑した。

「…ミルフイーユ、食べるでしょ?」
「苺多めがいい」

男は笑いながら「はいはい」と聞いてくれ、冷蔵庫があるキッチンへと向かっていく。シャツのボタンを一番上まで締めてから俺は男の後を追うようにキッチンへと急いだ。

「生クリームは?」

ミルフィーユと苺が二粒のった皿を出され、フォークを手に取りながらそう言えば、男が「カスタードクリームあるからいいでしょ」と笑う。

「…カスタード嫌いじゃないけど、どっちかっていうと、生クリームのが好き」
「君、そのうち糖尿病になっちゃうよ?」

呆れたように男は言いながらも、冷蔵庫へと歩いていく。苺を口へと放り込みながらその背中をじっと見ていると男は冷蔵庫ではなく棚から皿を取り出してテーブルの上に置いた。皿の上にはクッキーが並んでいる。

「ラングドシャ。生クーリムとチョコ挟んでるからこれでいいでしょ」
「…別にいいけど」

ひとつ摘まんで口に入れると予想外に上品な味がする。言葉なくミルフィーユとラングドシャを食べている俺を見ながら男がひとつ溜め息をついた。

「君、もしかして結構我儘だったりするの?」
「…さぁ」

我儘なんてひとつも言った覚えがなく、首を傾げると今度は大袈裟に溜め息を吐かれる。

「何だよ」

男の溜め息が気に入らなくて睨みつけると手が伸びて来た。そして口元についていたらしいカスタードクリームを拭いとる。

「ついてたよ」

赤い舌がぺろりと指先のクリームを掬う。その赤に無意識に顔を寄せてしまった。男の舌へと自分のものを絡ませながら。やっぱり甘いとぼんやり思った。






(2010/03/24)