秘密に愛と傷を重ねて。
R-18描写があります。苦手な方はそっとブラウザを閉じてね。
構わぬ!という心臓が強いだけどうぞ。
もう陽は完全に落ち、辺りには闇が漂う。そんな闇の中、町外れにある廃墟の中にぼんやりと灯りが灯っていた。そしてその室内からは男達の下品な笑い声とまだ大人というには幾らか幼い少年の甘い声で漏れてくる。
「ぁっはっ、あぁっ、やぁ…」
後ろか激しく腰を打ちつけられ、その度に襲ってくる感覚から逃れようと留三郎は身を捩る。肌と肌がぶつかる音と、動く度に絡んでいる箇所から聞えて来る水音と、そして荒い息遣い、自分が出す女のような声が室内に響いて留三郎の耳を犯していく。
「すっげ、締ま、る」
男は何度か律動を繰り返して留三郎の中へと白濁を吐き出し、体を震わせる。男のものが抜かれると、留三郎の秘所からどろりと白い液体が溢れて畳へと垂れた。うつ伏せに押さえつけられていた留三郎を男が仰向けにさせると、留三郎は涙を零したまま男の顔を見つめる。
「はは、泣くほど良かったか?」
男のその言葉に留三郎は答えない。
衣類を纏っていない留三郎の体には幾つもの赤い跡が散っており、中心で勃ちあがっているものは根元を手拭できつく縛られていた。
「こっちもどろどろだな」
男の手が勃ちあがっている留三郎のものに触れ、わざとらしく音を立てて扱く。そうすると留三郎の口からはひっきりなしに悲鳴に良く似た甘い声が上った。
行為を始めた時に声を上げまい、痴情を晒すまいと必死に抵抗していた留三郎に男達はお仕置きと称して達せないようにと根元を縛ったのである。
一度交わったというのはどうやら嘘ではないようで、留三郎の弱い箇所を知っている男達は簡単に留三郎を絶頂までへと追い立てた。理性はすぐに飛ばされ、声を抑えることは出来なくなって留三郎は涙を零す。
ずるりとまた太いものが挿入され、留三郎は弱々しく首を振った。体の中に溜まる熱は発散することが出来ずにずっと燻り続けている。奥深くまで突かれると目の前がチカチカと光ってあげたくもない声が漏れてしまう。もう、思考回路さえ熱で焼き切れてしまっていた。最初は声を上げない、痴態を見せないと気を張っていた留三郎も長い間体で燻る熱に、とうとう音を上げた。
「も…」
「ん?何だ?」
「も…出した、い…イきた…いっ」
涙交じりの留三郎の言葉に男達は満足したような笑みを浮かべた。
「素直になれば可愛いじゃないか。ほら、イっとけ」
根元で結ばれていた手拭が外され、大きな手の平で扱かれるとあっという間に留三郎は吐精した。あまりに強い快感に涙を零しながら体を震わせていると男の手は精を吐き出したばかりのそこを弄る。
「あっ…やぁっ…あぁっ…」
びくびくと体を震わせる留三郎へと腰を打ちつけている男は「前、弄ると後、すげぇ締めつけるぜ」と更に強く打ちつける。
「はっ…んっ、あぁっ…」
「ん、自分から腰振りやがって、気持ちいいか?」
男の言葉は留三郎に届いてはなかった。留三郎はただ早くこの快楽から解放されようと自ら腰を振る。瞳から大粒の涙が零れ、ぼんやりと開かれたその瞳はここではない何処かを見つめていた。
「う、やべぇ…」
男が低く呻き、中で精液を吐き出したのに感じたのか、留三郎も背を反らせて達した。
はぁはぁと荒い息を整えるように呼吸を繰り返す留三郎の目に映るのは入口から覗く漆黒の闇だった。いつの間に陽が落ちたのか、留三郎には分からなかった。男達がようやく腕を縛りあげている紐を解き、やっと両手が自由になる。それでも留三郎は目の前の男達を殴りつけようとはせず、横になって入口から見える闇を見つめるだけだ。
「お前やっぱり俺らと来ねぇか?もっと可愛がってやるぜ?」
男の武骨な手が留三郎の前髪に触れ、その手を留三郎は力なく払う。もう既に体力は残っていない。
「まぁ、仕方ねぇな。俺らももう戻らねぇといけねぇし。また会おうな、食満留三郎」
そんな言葉を残して立ち去っていく男達の背中を睨みつけながら留三郎は「今度会ったら殺してやる」と心の中で毒を吐いた。
町はずれだからか、風の音さえ耳に届く程に辺りは静まり返っていた。留三郎がゆっくりと体を起こして立ちあがろうとした時、緩んだそこから精液が零れて太腿を伝う。その感触が気持ち悪くて、近くに落ちていた手拭で拭き、丸めたその手拭を壁へと投げつけた。
「水の匂いか…」
不意に鼻腔をついたのは水の匂いだった。青臭い匂いが充満しているこの室内に微かに水の匂いが混じっている。
よろよろと痛む体を起こし、脱がされた服を適当に身に纏って家を出るとすぐそばに井戸があるのが分かった。水があると分かると留三郎は躊躇うことなく水をくみ上げて被る。つい先日まで雪が降っていた気温の中、水を被るなんて馬鹿がすることだ。それでも留三郎は何度か水を被り、汚れを落とすように体を強く擦った。寒さで歯が噛みあわなくなってカチカチと鳴りだすまで水を被っていた留三郎だが、寒さに震えた指先に力が入らなくなるとようやくその手を止めた。俯いて井戸の中を見つめるその姿はまるで今にも井戸に身を投げようとしているように見えた。けれどそれを止める者はおろか、見ている者すらいない。井戸の縁に置かれた手がぎゅうと強く握りしめられ、それはまるで自分の弱さを握りつぶしたようにも見えなくはなかった。
「…帰ろう」
一言呟いて留三郎はずぶ濡れのまま学園に向かって歩きだす。その頭上にはまるで刃の切っ先みたいに細い月が昇っていた。
学園に辿りついた時、事務員である小松田が留守で本当によかったと留三郎は思った。こうもずぶ濡れでいかにも訳ありで帰って来た所を見つかったらきっと騒がれてしまっていただろう。そうはならなかった事に胸を撫で下ろし、そしてあんな事があったからそもそもの運は悪かったのだが、この事に関しては運がよかったと思いながら留三郎は学園の門をくぐった。そしてまるで闇に紛れるかのように気配まで消して留三郎は学園内を歩いていく。
不意に力を抜くとどろりと、まだ中に残っていた精液が太腿を伝うのが分かり、留三郎は顔を顰めた。一直線で風呂場へ向かおうと思っていたのだが、あまりの不快さに厠で掻きだしてしまおうと近くの厠へと足を向ける。明日は授業がある日だからか、学園内はもう静まり返っていた。
厠が視界に入って歩くスピードを上げた留三郎だったが、視界にある人物の姿が入った瞬間にその足を止めた。
「…もんじ、ろう」
厠の傍に立っていた人物は名を呼ばれて顔を上げた。留三郎を見つけると心配そうに表情を歪めた文次郎は一歩踏み出し、それに気付いた留三郎は一歩後ずさった。
「…留三郎、どうしたんだよ」
もう少しで春が来るといっても陽が落ちればまだまだ寒い時期にずぶ濡れのまま外に立っている留三郎を文次郎が不審に思わないはずがなかった。
「…何でもねぇ」
留三郎は素気なくそう返し、胸元をぎゅうと握りしめる。そして立ち去ろうと文次郎へと背を向けた。
「何でもねぇって、んなわけねぇだろう」
少し荒い語気で文次郎は留三郎の肩を掴んだ。服は随分と濡れていて冷たい。
「なぁ、何があったんだよ」
ぐいっと力強く引き寄せると留三郎が「放せ、」とその手を強く払おうとした。しかし力が入ってないその手は文次郎の手を叩くだけだ。
「留三郎!」
名前を呼ばれ、振り向くように肩を引かれた。その手を振りほどくことは出来ず、留三郎の意思に関係なく文次郎に抱き寄せられる。
「とりあえず、濡れてる服脱げよ、着替え持ってきてやるから」
俯いたままの留三郎はぎゅうと強く胸元を掴んでいて、その手を解かせようと文次郎は手を伸ばす。
「やめろ、触んな」
留三郎は俯いたまま文次郎の手を今度は強く叩いて拒否を示す言葉を吐いた。留三郎に拒否の言葉を向けられたのは久しぶりで文次郎は驚いて手を止めた。
「…何でもねぇから、放っておいてくれ」
「何でもねぇって、んなわけないだろう」
「俺が何でもないって言ってるんだから何でもないんだ」
留三郎は文次郎のつま先を見つめながらまるで自分自身にまで言い聞かせるように強い口調で言葉を吐く。
「…俺は心配すらしてはいけないのか?」
苦し気なその声にはっと留三郎は顔を上げようとした。が、結局顔は上げず、さらに胸元を掴んでいる手に力を込めた。
「…心配しなくてもいい。自分のことは、自分で何とか出来る」
「…そっか」
文次郎は寂しげに呟いて、留三郎の肩を掴んでいた手を離した。ほっとしたように、肩の力を抜いた留三郎はそのままその場を立ち去ろうと文次郎へと背を向けようとした。が、その時、足元にあった大きめの石に躓いてよろめいてしまった。普段の留三郎なら簡単に体勢を整えることが出来た。けれど今は体に力は入らず、特に足や腰を中心に疲弊していた。転ぶ、そう思った瞬間に体を動かせることが出来なかったのだ。文次郎はそんな留三郎へと手を伸ばし、地面へ崩れ落ちる前にその体を抱き寄せた。
「おい、大丈夫か?」
慌てて留三郎の顔を見ようとした文次郎の視界に、思わぬものが入った。先ほどまで抑えていた右手が胸元を離れていた為に、服の隙間から覗くその白い肌に落ちている跡を見つけてしまったのだ。文次郎が驚いて目を見張り、その顔を見て留三郎は見られてしまったのだと気付いた。慌てて隠そうと胸元へ手をやるよりも早く、文次郎はその服へと手を伸ばして肌蹴させる。月の光に照らされた青白い肌に浮かんでいたのは無数の赤い跡で、哀しくも文次郎が付けた鎖骨の跡は薄くなり、消えてしまっていた。
「見るな、触んなよ!」
大きな声でそう言い、留三郎は文次郎を突き放す。その手は恐怖からか、悲しみからか、微かに震えていた。
「…誰にされた?」
「お前には、関係ねぇ」
留三郎はその肌を隠すようにまた胸元を強く掴んで文次郎へと背を向ける。そしてこれ以上一秒もこの場に留まりたくないという様に走り出した。その背中を文次郎は追いかけたが、風呂場へと逃げ込まれてしまい、目の前で戸が固く閉められた。
「留三郎、」
戸を閉め、つっかえ棒までして文次郎を拒む留三郎に文次郎は力なく名を呼ぶことしか出来ない。
「…来るな、もう、俺を見んな、よ」
ぺたりと床に座り込んだ留三郎は戸へと凭れて俯き、戸の向こう側にいる文次郎へと尚も突き放すような言葉を投げる。
「俺に出来ることはないのか?」
縋りつくようなその言葉に、一瞬留三郎は息を飲んだ。けれどすぐに「ない」と返す。その瞳からは涙が零れていたのだけれど顔見ることが出来ない文次郎はそれを知らない。
「…伊作、呼んでくるよ」
悔しいけれど今の自分には何も出来ない、そう思った文次郎は名残惜しげにその戸へ額を付けて呟く。そして暫くするとその場から静かに立ち去った。
「…見られたく、なかったのに」
文次郎の気配が完全に去った後、その場に残された留三郎は嗚咽を漏らしながら泣いた。
大丈夫。これくらいのことは平気だ。何ともない。女じゃあるまいし、これくらいじゃ傷つかない。大丈夫。痛いけどそのうち治る。大丈夫。気持ち悪いけど、そのうち消える。大丈夫、大丈夫、大丈夫。
そう何度も繰り返して思いこもうとしていたけれど、文次郎に知られてしまった途端、それらは無駄な努力と成り果てた。
「もんじろ、う、」
涙を零しながら助けを求めるように文次郎の名前を留三郎は繰り返し呼んだけれど、もうその声が届く場所に文次郎の姿はなかった。
(2010/04/10)